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桃の缶づめ

桃の缶づめ

~エピローグ~

~~~~呪いの椿油 エピローグ~~~~



安田老人の話は、終わりを迎えつつあった。


「こののち、桃和香は、伯爵夫人の身分を捨て、この山里に、椿庵という庵ををむすんで、千恵子とオババの霊を弔ったということです・・この土地の、ひとびとも姉妹の霊を慰めるために、椿の花を大切に育てるようになりました。しかし、椿の柄の着物や羽織は、呪いを思い起こさせるためでしょうか、避けられるようになり、親から子へ、子から孫へといわれは、忘れられても、伝わっていったようです。」


安田老人の長い話を聞き終わり、桃野 和香子は、帰りの途にあった。

頭の中には、今しがた、聞いた話が、ぐるぐると巡っている。

彼女は、今度の取材に、桃和香千恵子伝説を、エピソードとして、入れるべきかどうか、考えが決まらなかった。地方に伝わる、珍しい伝説と、その伝説が、今でもその地方の、
織物や染め物に、影響しているという事実は、記事にするに、価値のあるものに思われた。しかし、いっぽう、今、現在、椿の柄を、持っている読者、また、つくっている業者は、どう思うだろうか?あまり、良い気持ちには、ならないに違いない、と・・

そんなことを、考えながら、道を歩いていると、椿が満開の庭が道沿いに見えて、
思わず足を止め、見入った。すでに、たくさんの花が、咲いたままに落ちており、
落花芬々の風情である。

と、そのとき、和香子の目の前で、ぽたり、と椿が落ちた。

いにしえの桃和香と千恵子から、「そっとしておいてください」と語りかけられたように感じ、和香子は、「やはり、掲載はやめよう。姉妹のやすらかな眠りのために・・」と
心を決めると、ショルダーバッグを担ぎ直すと、きっぱりとした足取りで、駅へと歩き始めたのであった。







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